インターネットは、さまざまな情報が資源として埋蔵されている、
“知の宝庫”そのものなのである。
私たち人類は今、その“知の宝庫”であるインターネット新大陸を
目指すために、パソコンという“コンピュータ帆船”を操り、
<WWW>(ワールド・ワイド・ウェブ)という“ネットワークの風”を背にうけ、大航海へと旅立とうとしている。
今までの価値基準。これからの価値基準。
インターネットを『新大陸』であるとする根拠は、インターネットそのものが、じつは、さまざまな情報資源が埋蔵されている“知の宝庫”そのものではないだろうか、とすることにある。
当然のことであるが“知の宝庫”に一歩足を踏み入れれば、そこにはすべての資源が情報という名前に形を変えて眠っている。問題は、どこに眠っているか、どこに埋蔵されているかであり、そして、その埋蔵されている資源が、現代の私たちの価値基準にかなっているか、かなっていないかである。
前者の埋蔵されている場所を探すことは、科学技術が飛躍的に発達した今日、それほど難しくないことであろう。しかし、価値基準にかなうか、かなわないかの判断は難しくなりそうである。
例えば、200年前、ある原野に黒い泥水が湧いていたとしよう。その泥水の存在は当時の人たちには、ツンと鼻につく臭いがする、ただの泥水でしかなかった。また、南太平洋のある島での話であるが、その島は島中が鳥の糞だらけの島だった。さらにオーストラリアの砂漠にはただの荒涼としたガレキの山が連なっていた。
今日、それらの鼻つまみものが、石油として、リン鉱石として、ウラン鉱石として莫大な富を産み出し、近代社会の形成に不可欠な資源となったことは言うまでもない。価値基準の判断は、なんとも難儀なテーマである。ましてや、インターネット新大陸と定義しようとしている、今度の新大陸で発掘しようとしている資源が、目に見えない知的所有物の類であるとするならば、目がくらむ思いである。
しかし、そのような目がくらむ思いは、私たち人類史上において珍しい問題ではなく、つい500年前の、15世紀の時代のコロンブスやマゼランやバスコダガマが活躍した大航海時代の幕開けのときに経験していることでもある。そのときの社会の風景や風土が、500年経過した今日と、よく似ているといえば似ているのである。
革新は飽和した瞬間に、不連続の連続で起こる。
その当時、ヨーロッパ大陸ではルネッサンスの嵐が吹き荒れ、権力構造や、政治システムや、社会システムや、産業システムや、富の分配システムなどが、ダイナミックに様変わりしようとしてした。
ヨーロッパ大陸全体が逼塞しつつあったといってもよかった。いわば社会全体が過飽和状態を迎えていたともいえる。過飽和状態の常として、過飽和状態の中にある種の播種が為されると、その過飽和状態は、一挙に、まったく新しい形態として生まれ変わる。例えば、今まで<液体>の状態であったのが、突然、<結晶>の状態になってしまうようなものである。
当時のヨーロッパ大陸はそのような時代であり、播種が、まさに大航海であり、その結果が、新大陸としてのアメリカ大陸の発見・移民・開拓であった。大航海以後、ヨーロッパ大陸を中心とする文明・文化の流れは、確実に、アメリカ大陸を中心とする文明・文化の流れへと変わることを十分に予見させるものでもあった。今日は、まさにその延長線上にある。
500年前のベンチャービジネス。
さて、1500年代のヨーロッパ大陸で、新大陸を目指した人たちには、2種類の人たちがいた。帆船に乗って命を懸けて新大陸を目指した、いわば冒険者(ベンチャー)たちと、その帆船を工面する資金を、それこそ清水の舞台から飛び降りる覚悟で提供し続けた、その当時の時代の権力者・資産家(キャピタリスト)たちであった。どちらの種類の人たちも目指したのは新大陸ではあるが、“黄金のジパング”に代表されるように、目的は当時のヨーロッパ大陸における価値基準(基軸価値)であった<金>を手に入れることであった。
結果はどうであったか。新大陸を目指した人たちも、その資金を提供した人たちも、それなりの<金>を手に入れることができたが、コロンブスにいたってはたどり着いたところが、今のキューバということもあり、大航海の資金を提供した権力者や資産家たちの満足をかなえる量ではなかった。もちろん、別ルートで南米大陸に到達したスペイン人たちは、略奪の限りを尽くして、<金>をはじめとするかなりの財宝を手にはしたが、それらの財宝もすぐに取り尽くしてしまった。
新大陸を目指し、その新大陸を発見したことによって莫大な利益を手にした人たちは、決して<金>を手に入れようとした人たちではなかった。むしろ<金>に固執した人たちは、資金を提供した人たちも含め、その後10年もしないうちに、滅亡の憂き目にあっている。当時の10年は、今の時代の速さで比べれば、それこそ数ヶ月という時間であろう。
では、一体、新大陸を目指した人たちの、誰が、どのようにして莫大な富を手にしたのだろうか。そして、その富は何だったのだろうか。
明日の<基軸価値>は、初めから輝いてはいない。
一つには胡椒であった。一つには綿花であった。胡椒は、大航海によって初めてヨーロッパ大陸に大量に持ち込まれたものであり、その胡椒は、それまでのヨーロッパ社会における<肉食>の文化をドラスティックに変革してしまった。綿花は言うまでもなく、産業革命の表舞台の主役である蒸気機関と共に陰の主役となったのである。そして、胡椒と綿花は、同時に、交易文化(ネットワーク文化)の起爆剤となり、西と東の融合(ボーダレス)が始まったのである。もちろん、当時のネットワークを飛び交った端末は帆船であり、データは胡椒や綿花などの原材料であった。
では、<金>を目指した人たちは、なぜ滅亡の憂き目にあったのか。彼らは、どこに行けば<金>があるか。<金>が在る場所の情報のみを追い続け、決して自ら発信することがなかった人種であった。彼らが価値観をおいたのは、既に金として生成されたインゴットであった。たとえすぐ足下に莫大な量の金鉱石が埋まっていたとしても、その金鉱石は光り輝く黄金色ではなく、白い石英色にわずかな黒い点が黄金色をはなつことなく、ちりばめられていたモノでしかなかった。彼らの頭の中には、その黒い点が金と同じモノであるという知識(既成の常識を飛び越える直感力)がなかったのである。当然のことであるが、インゴットとしての<金>はすぐに取り尽くされ、新大陸での彼らの役割は瞬間的に終わったのである。
情報を呼び込む人、情報を見つけに行く人。
一方、胡椒や綿花に価値観を見いだした人たちはどうであったか。彼らは決定的に違ったのである。彼らはある時から情報を探し出す最善の手法は、情報を見つけに行くことではなく、情報を発信し続けることであると気づいたのであった。「私は胡椒が欲しい。どこそこにその胡椒を持ってくれば、美しいガラス玉をあげる」といった情報を発信したのである。そして、彼らの中にはさらに深く気づいた人種がいたのである。胡椒を持ってきた人たちから胡椒とガラス玉を物々交換しながら、胡椒の作り方を聞き出すことの価値に気づいた人種である。胡椒の作り方を聞き出した人種は、胡椒をプランテーションで大量生産する知識を既に小麦の栽培で習熟していたのである。
コロンブスの話が長くなってしまったが、インターネット新大陸の話はどこに行ってしまったのか。じつは、インターネット新大陸の話は、コロンブスの大航海の話とまったく同じと言ってもいい。つまり参考にできるのである。参考にできるどころかバイブルにできるのである。
ネットワーク新大陸を目指そうとしている人たちが、そこで何を見つけようとしているか。<金>なのか、<胡椒・綿花>なのか。はたまた、<胡椒・綿花>の栽培方法を見いだそうとしているのか。
利用するための知識は、無限の富を創出する。
インターネット新大陸にはすべてがある。あたりまえのことである。インターネットにつなげられたコンピュータには、そのコンピュータを使用している人間の知識が網羅(ハードディスクなどに)されているのである。しかし、その知識とは、インゴットとしての<金>ではなく、<金>鉱脈を見つける知識とか、金鉱石を精錬する知識である。さらには、胡椒という草花の実を肉にまぶすと味が良くなるとか、保存がきくとかいった類の知識である。実現手段である。目的は自らが『何をしたい』と創り出さなければならないのである。自らが『何をしたい』を創り出したらインターネットで発信すればいい。「こんなことをしようと考えついたのだけど、誰かいい知識を持っている人はいませんか。一緒にやってみたいという人はいませんか」というように。この発信のためのコストたるや、既存の広告メディアのコストを考えると桁違いに安い(何円の世界である)。誰でもが気軽に情報発信者となることができる。情報発信者とは、従来の常識で言うと権力者と同義語のことである。
インターネットでは、一人一人が絶対者。
だからこそ、インターネット新大陸では、絶対ともいえる一つのルールが暗黙のうちに存在するのである。自らの行動は自らの責任と規範で、自らがルールを形作り遵守していかなければならないのである。この事実も、じつは権力者としては至極当然の事実なのである。以上の事実を自らが自覚しなければ、このインターネット新大陸では、あっというまにはじき出される運命になる。インターネット新大陸では、一人一人が絶対者なのである。自らを律することができる<個>と<個>と<個>が無限に、そして同時共時に有限にネットワークし合って共生し合う社会に生きる絶対者なのである。それが来るべきインターネット社会の在るべき姿なのではないだろうか。ヒューマンネットワーク社会なのではないだろうか。
以上