情報化社会においては、欧米諸国はもちろん、発展途上国も含め、世界のすべての国が、一つの塊になって走っている時代なのです。インターネットの普及は「時間と空間」の壁をすべて取り払ってしまったのです。グローバル・ネットワーキングが構築された企業間においては、情報のやりとりは国境を意識することはまったくなくなりました。必要な書類のやりとりはもちろん、プロジェクトの進捗管理も、すべて電子メールやファイル転送システムで瞬時に行われるようになりました。国際電話という概念もなくなりました。IP電話の普及により、同一事業所間、もしくは同一事業所内における通話コストはゼロ円の時代です。テレビ会議システムもひと昔前のシステムとは比較できないほど進化しました。イニシャルコストも、ランニングコストも圧倒的にダウンしました。
ある企業の研究開発プロジェクトにおいては、研究開発チームを東京と、サンフランシスコと、ロンドンの3カ所に設置しています。東京の開発チームが定時になって終了した時点で、サンフランシスコの開発チームが始業時を迎えて、その進捗を引き継ぎます。サンフランシスコの開発チームが定時になって終了した時点で、ロンドンの開発チームが始業時を迎えて、その進捗を引き継ぎます。そして、ロンドンの開発チームが定時になって終了した時点で、今度は東京の開発チームが始業時を迎えてその進捗を引き継ぐ、というように時差の壁を利用してのシームレスな24時間・365日開発環境を実現しています。当然のように、それぞれの開発チームはプロジェクトのアウトソーシングを、必要なスキルと実績を有する国内外企業に発注しています。
重化学工業に代表される機械制工場の建設には莫大な資金と人材育成のための時間を必要としますが、情報産業に代表される知識制工場の建設には、莫大な資金を必要としないのです。そもそも工場そのものが不要なのです。必要なコンピュータの設置スペースがあれば、あとはコンピュータを運用するためのオフィススペースを確保すれば済んでしまいます。技術移転は瞬間的に行われます。人材育成も1年単位で育成して供給できるのです。
いまやインドや中国は、IT産業の先進国になりつつあります。韓国や台湾は、すでにわが国を脅かすライバルであり、同時に、欧米諸国を脅かすライバルです。ゼロから起業して、わずか数年で上場して覇者となりうる可能性があるのがIT産業の特長です。
国家としての規模で基幹産業の育成を考える必要はまったくないのです。会社単位、個人単位の規模の集合体が、国の基幹産業としての規模なのです。グローバル・ネットワーキングの時代では、「分散と自由と自発性」が三種の神器として鎮座しているのです。
もはや、「集中と規制と権力」を三種の神器として君臨させていく時代ではなくなっているのです。この事実は、会社経営においてもまったく同じ状況にあると言えます。経営の主体は、事業部別経営から、課別経営、そして社員別経営へ、と変化しつつあります。同時に、成果の主体も法人成果から個人成果へ、と変化しつつあります。「社員別経営システムの導入」の是非が問われているのです。
かつて、ある有名なマラソン選手がトップの後にぴったりとついて、最後の最後に抜き去って優勝を手にした姿を見て、欧米諸国の人たちは決して賞賛の拍手を送ることはなかったのでした。日本人の多くも心の中では「フェアじゃないな」と思ったに違いないのです。経営者に必要な「胆力」は、このトップを走りきる資質です。優勝のテープを自らが手を挙げて切る栄光を手にすることができる可能性と引き替えに、ときには風よけになり、ときにはペースメーカーとなり、孤独な走りを見せなければならないのです。先頭集団についていけば良かった時代は、すでに終焉を迎えているのです。