YOSHIDA ATSUO ACCOUNTING OFFICE

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コラム

「租税法律主義」が揺らいでいる

 税金に発生した一つの不満は、租税法の基本理念とも言われる「租税法律主義」の揺らぎです。「租税法律主義」とは、文字通り、“租税の賦課、徴収を行うためには必ず法律の根拠を要する”という理念です。

 言うまでもなく、法律を立法化する機関は「国会」であり、憲法41条によって“国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である”と謳われています。また国会には、私たち選挙民の意志を反映する手段として、選挙によってのみ選ばれた国会議員が存在します。ですから、租税に関する法律として、直接税としては所得税、法人税、道府県民税事業税等、間接税として消費税、酒税等が、それこそ蟻の這い出る隙間がない、といってもいいほど数多くの租税が制定されています。

 税金の問題は、私たちの私有財産権に対する侵害としての性質を持つものです。ですから租税法は「租税法律主義」と「租税公平主義」の2つを基本理念として、“国民の総意の代表である国会が定めた法律によってのみ負担する”という、「租税正義の原則」、「公平負担の原則」が、どこまでも貫き通されていなければならないのです。しかし、今日、この「租税法律主義」が揺らぎつつあるのです。何が揺らいでいるか。

 一つには、国会で立法化された法律の大部分が国会議員によって作成された議員立法ではなく、行政府の官僚の手で作成されていることです。いわゆる閣法の存在です。閣法は、官僚が作成した法律案を大臣、内閣、国会が追認して作成される法律であり、極論するならば、官僚が実行したい政策を、審議会、研究会、検討会などの、いわゆる「専門家」、もしくは「有識者」と称する人たちの意見を利用して作成される法律です。事実、2004年度の1年間に国会に提出され成立した法案のうち、議員立法が23件、閣法が144件です。つまり、およそ20対80の割合で、圧倒的に閣法が多くなっています。

 そしてもう一つには、政治資金規正法の存在です。そもそも政治資金規正法の問題点は租税法の根本的な欠陥にあります。脱税というものを国家と国民に対する偽証罪として捉えていないことにあります。また、脱税未遂犯を罰する法律も存在しないのです。このことは何を意味するかというと、会計帳簿へ嘘を書いても、つまり不実記帳、あるいは虚偽記帳をしても、これを罰する法律が存在しないのです。

 嘘みたいな話ですがこれが真実なのです。会計帳簿を基にして租税申告する場合、これを監査する税理士なり公認会計士には監査責任が存在し、その監査に問題があった場合には税理士なり公認会計士を法律で罰することができるのですが、会計帳簿を作成する納税者自身、つまり経営者、もしくは経理責任者が、この会計帳簿に不実記載、もしくは虚偽記帳しても、これを罰する法律が「租税法」には存在しないのです。そもそも、会計帳簿に嘘偽りがないことを自署捺印する必要がないということは「会計帳簿へ不実記載、もしくは虚偽記帳したら偽証罪に問われることを承知して、私は、私の申告書が、真実、正確、完全であることを宣言します」という覚悟が存在しないのです。

 ですから、会計帳簿の不実記載や虚偽記帳が発覚しても、忘れていました、勘違いしていました、と言って修正すれば罪に問われることないのです。申告漏れとして扱われ、修正申告して追徴課税に応じれば罪に問われることはないのです。

 政治資金規正法における会計帳簿は、いわゆる「政治資金収支報告書」に相当します。会計帳簿と同じように、政治資金収支報告書へ嘘を書いても、つまり不実記帳、あるいは虚偽記帳をしても、これを罰する法律も存在しないのです。不実記帳、あるいは虚偽記帳が発覚したら修正すれば罪に問われることはありません。

 うがった見方ですが、租税法における罰則規定を強化すればするほど、政治資金規正法の罰則規定を強化せざるを得なくなると言うブーメラン現象が発生するが故に、政治家先生たちが、租税法の不備をおざなりにしているとも言えます。

 考えてみれば、今日の国会議員の大部分は官僚出身者と、世襲によって生まれた二世三世議員と、いわゆるタレント議員が多く占めるようになりました。最近は、公募による議員も多く誕生していますが、マイノリティ(少数派)の域を脱していません。世襲議員やタレント議員の能力を疑うわけではありませんが、少なくとも権利が利権化され、後援会(地盤・看板・鞄の象徴)の存続イコール世襲議員の誕生という構図は、なにやら封建社会の様相を帯び、民主主義とは対極にある、閉じた世界(当選することは手段にもかかわらず、当選することが目的化する)での政治が行われるようになります。このような状態で、私たち納税者が納得できる租税法律が作成され、施行されているのでしょうか。国民の総意の代表である国会が定めた法律が立法化され、施行されているのでしょうか。

 「李下に冠を正さず」とい故事を持ち出すまでもなく、政治家自らが租税正義を実践することなく、我々一般納税者が租税正義を自覚することなど夢のまた夢の話になります。