YOSHIDA ATSUO ACCOUNTING OFFICE

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コラム

経営の目的と、その手段をあいまいにする経営者

 少し難しい話をします。企業の利益の源泉は、その企業の存在理由と一致していなければならない、というお話です。すべての企業組織は、その業種・業態に関係なく、モノを開発する部門と、モノを生産する部門と、モノを営業する部門と、それらの各部門の業務を支援(管理)する部門とで構成されているはずです。そして、すべての企業組織は、業務効率利益と基礎利益に合算される企業利益を生みだすはずです。

 業務効率利益とは、モノを生産する部門、モノを営業する部門、そして各部門の業務を支援(管理)する部門で発生するモノです。基礎利益とは、モノを開発する部門で発生するモノです。また、ここでいうモノとは、企業における有形・無形の成果物のことを意味します。ま、簡単に言ってしまえば「モノ=製品」と言えるのですが、「モノ=経営の目的」と定義するのが最も適切です。たとえば営業部門がなしえる売上利益は、本質的には、その企業の存在をなすものではなく、営業の業務効率アップの結果で生じる業務効率利益(決算期内に生じる実現利益)でしかないのです。

 しかし、今日、多くの企業では、この営業部門こそが企業の利益の源泉であると錯覚し、営業部門への評価が過大評価されがちです。本来、営業部門は、開発部門が技術開発するモノを消費者へ受け渡すための機能であり、消費者の満足のなんたるかを認知することはできても、開発できる部門ではないのです。営業部門に対する過大評価は、ときには消費者の満足を無視し、売上中心主義に走り、結果的に、消費者の不満足を発生させる原因となりえるのです。

 営業部門至上主義は、その企業の存続を是非する問題を発生させる危険性を含んでいるのです。金融・証券企業の不祥事が、そのひとつの実証事例です。「とにかく売ってしまえば、あとは野となれ、山となれ」です。企業における利益の源泉は、業務効率利益ではなく、基礎利益であるということを明確に認識しなければならないのです。

 また、企業の基礎利益は、企業の存在を成すモノであり、その存在を成すモノが、顧客の満足と一致していることが企業発展の基本なのです。突然、難しい話になったので整理してみます。

・企業の利益=業務効率利益+基礎利益(企業の利益の源泉)
・企業の利益の源泉=基礎利益=企業の存在理由企業の存在が実現している=顧客の満足が実現している
・企業が発展している状態=顧客の満足が継続している状態

という図式です。つまり、経営の目的は「企業の存続」であり、その手段が「企業の利益」なのです。しかし、「企業の利益」の中には、業務効率利益、つまり決算期内に達成できた実現利益、つまり売り上げ目標の達成と、基礎利益、つまり、企業の利益の源泉、つまり、お客様の満足が含まれているのです。

 経営の目的と、その手段をあいまいにする経営者は、「お客様の満足」が目的であるにもかかわらず、「売り上げ目標の達成」のためには、「お客様の満足の達成」に目をつぶってしまうのです。手段を目的化してしまうのです。古い例では、三菱自動車のリコール事件や雪印の品質管理事件。最近の例では、キャッシュカードの盗難事件に対する銀行の対応が挙げられます。バブル華やかなりし時代の銀行における押しつけ融資などは、その典型と言えます。